日欧宇宙フォーラム参加報告

本年5月にGNSS.asiaと題した測位航法分野における日欧連携に関するセミナーに参加しましたが、同じ主催で宇宙活動における欧州との協力に関するフォーラムが2014年10月8日に駐日欧州連合(EU)代表部で開催され、今回も参加してきましたので報告致します。
1.日欧の宇宙戦略方針
 まず日本の宇宙戦略について、内閣府からの講話があり、中国の台頭や新興国による積極的な参入など、軍事目的・平和利用の両方において宇宙を取り巻く環境が変化しつつある昨今、日本政府も積極的な宇宙利用に舵を切る方向で戦略の見直しが始まったとのことでした。9月に安倍首相が指示した新たな宇宙基本計画では、安全保障上における宇宙戦略を反映し、また1次請け以下の宇宙関連企業で事業撤退や人員削減が続く宇宙産業の基盤回復・強化の為、これまで年度毎であった計画を10年の長期整備計画とするよう指示が出されたということです。
欧州の状況としては、Galileoという全地球航法衛星システム(アメリカのGPSと同様のシステム)が立ち上がろうとしている中で、EGNOSというSBAS(静止衛星補強型衛星航法システム)のシステムで様々なアプリケーションやサービスを提供していくことを一つの大きな取組としており、宇宙安全保障におけるフレームワークの構築と共に進めて行く考えを示されました。
2.日欧の研究と産業協力
JAXAの田口氏より未来航空輸送における高速基盤技術として、極超音速ターボジェットエンジンによりマッハ5で巡航し、東京-ロサンゼルス間を2時間で運行する極超音速旅客機(Hypersonic Transportation Aircraft)の紹介があり、サブオービタルへの利用も含めて研究を行っているとのことでした。
またESAとJAXAが共同計画している水星探査ミッションである「BepiColombo(ベピコロンボ)」が紹介され、米国のマリナー10号以来の水星探査を目指し、水星表面探査機:MPO(Mercury Planetary Orbiter)[3軸制御、低高度極軌道]をESAで、水星磁気圏探査機:MMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)[スピン制御、楕円極軌道]をJAXAで担当し、準備を進めているとのことでした。
3.地球観測
EUではコペルニクスという地球観測計画があり、その中の衛星計画であるSentinelにおいて、Sentinel-1(SAR)、Sentinel-2/3(OPS)からSentinel-5Pまで、地表、海洋や大気監視に関する6つの衛星打ち上げの予定が示されていました。
JAXAではSentinel Asiaという地球観測衛星などにより取得した情報を基にアジア地域における防災支援を行っているとのことでした。先日の御嶽山の噴火前後の地形変化をALOS2による画像を基に示され、またベトナムやカンボジアでの洪水予測や干ばつ予測、全地球域でのCO2変動などを紹介されました。EUではこの分野のサービスとしてコペルニクス/マイ・オーシャンというプログラムを開始しようとしていますが、JAXAでは「GCOM-C」「EarthCARE」と2機残っている地球観測衛星打ち上げ後は、運用により注力していきたいということでした。
エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社からはGO3Sという欧州・アフリカ地域上空の静止衛星からのリアルタイムビデオのデモが流されました。1日当り14時間分の動画像を分解能3m、100km×100kmの大きさで撮像でき、計画のアップリンクから5分以内で対象の関心地域への姿勢変更が可能ということで、自国周辺の防衛手段として静止衛星によるリアルタイム観測の有効性を感じることができました。
4.欧州における次期資金提供の機会
EUでは「ホライズン2020」という計画の中で、2014-2020期間において総額800億ユーロという大規模な研究イノベーションの為の資金助成プログラムが立ち上がったそうです。「優れた科学(Excellent Science)」「産業リーダーシップ(Industrial Leadership)」「社会的課題(Societal Challenges)」という3本の柱からなり、プロジェクトの成果についてはほぼ完全なオープンアクセスになるとのことでした。日本の研究者や企業も参画が可能だそうですが、各自の資金については持参する必要があるとのことで、欧州との共同研究が進んでいる分野など以外ではまずは様子見になるのではないかと思います。
5.衛星航法アプリケーションとサービスにおける日欧産業協力
先にも紹介したEGNOSについては欧州でしか利用できないようですが、Galileoについては全地球域を対象としており、日本とも協力してサービスを進めて行きたいとのことでした。例えば、交通事故の場所特定や、農機や船舶の誘導、災害監視など、日欧で発生する同じような状況で提供するサービスとして協力していけると考えているそうです。Galileoについては多言語でのサービス・情報提供を開始しており、日本のみならず東南アジアやオーストラリアまでアジア全域での利用を推進しているとのことでした。
またSPAC(一般財団法人衛星測位利用推進センター)から準天頂衛星とGalileoとの協力体制について説明があり、今後GPS/GLONASSだけでなくCOMPASS(中国)やIRNSS(インド)など様々な測位衛星が打ち上がる為、2020年までにアジア地域は測位衛星により非常に高密度な状態でカバーされ、様々な実証実験や新しいサービスが提供される地域になっていくとのことでした。
興味深かったのが、2020年にオリンピックを控える日本におけるサービスについての考え方です。地図や観光案内などの高精度化や多言語化は勿論、パラリンピックに対応するアプリケーションは、今後世界一の高齢化社会を迎える日本社会に還元できるだろう、ということでした。車椅子や自転車の幅はおよそ60cmなので、測位精度として30cm(1foot=1尺)を基本単位として考えることで、ユーザ視点と精度とのミッシングリンクを発見できるだろうとのことでした。
6.日欧宇宙輸送と衛星産業協力の未来
アリアン5ロケットを持つ、アリアンスペース社は三菱重工、ボーイングと、各社のロケットのバックアップサービスを行うパートナーシップ協定を結んでいるそうです。その上で、日本の報道ではアリアンロケットをH-IIAの「ライバル」と表現されている現状と、先日安倍首相がスペースX社のイーロン・マスクCEOと握手している写真を挙げて笑いを取っていましたが、半分冗談ではないのだろうと思いました。
タレスジャパンはフランスの大手電機企業であるタレス・グループに属し、航空宇宙、防衛、セキュリティのサービスを提供している会社だそうです。Galileo衛星のナビゲーションシステムを手掛けているようで、またイリジウムの置き換え版であるイリジウムネクストという衛星携帯電話サービスの衛星開発を、主契約者として担当しているとのことでした。
MELCOさんからは、日欧協力ということで3つの提案がありました。1つは地球観測におけるサービスで、ALOS2のLバンド合成開口レーダは樹木等の表面だけでなく地表面の状況まで感知することが可能であり、欧州のSAR衛星であるTERA-SARのXバンドレーダによる樹木表面の画像と合わせて、相互補間するような画像提供サービスが可能なのではないかというものです。2つ目はQZSSの運用に関し、GalileoとEGNOSのサービスで進んでいるEUから日本は色々と学ぶことができるであろうこと、3つ目は部品の共通開発・共同調達をしてはどうか、という提案でした。
他のセッションと違い、本セッションに登場したのはいずれも営利企業ということもあり、3社共あまり具体的な話ではなく、あくまでもフォーラム向けの日欧協力の体裁を整えただけ、という気がしました。我々も欧米への展開を期待してこういった場に参加し、情報収集している訳ですが、日欧共同というと聞こえはいいものの、相手もビジネスとしての連携を期待しているのだ、ということを念頭に置いておきたいと思いました。
7.スペースセキュリティ
本セッションは、テーマにダイレクトに関わる欧州対外行動庁(EEAS)と防衛省、外務省からの講話ということで、あまり積極的な提言などはありませんでした。その中でトピックスを挙げるとすれば、防衛省による積極的な宇宙利用の開始です。防衛省はこれまで「宇宙の平和的利用」という言葉の解釈の問題により、50年以上の間宇宙を利用することができなかったそうです。しかし中国による衛星破壊実験等、各国によりなし崩し的に宇宙の平和利用が侵害されている現状を鑑み、これを限定的にしかし積極的に宇宙利用を行う方針に変換し推し進めているとのことでした。衛星画像の入手は勿論、自ら3機の衛星を保有することが明示され、測位衛星や弾道ミサイル防衛、宇宙状況監視についても言及されていました。平和利用か軍事利用かのグレーゾーンに対して、欧米や他国では恐らく明確になって久しい宇宙(平和)利用に対する態度に、ようやく日本も追随することを決めたのかな、という感じがしました。難しい問題だということはあるのでしょうが、こうした決断や法整備の遅滞する理由が、日本人の真面目さに起因するのか、政治の怠慢によるものなのか(恐らく後者だと思いますが)、欧州の方も興味深く聞かれたのではないでしょうか。
(報告:諸島)