ECLSS研究会について

■ECLSS研究会について

宇宙には人間が生きてく上で必要な空気や水、食料などは存在せず、地球から必要な物資を運んでいく必要があります。しかし運搬可能な物資の量には限りがあるため、可能な限り物資や資源の再利用を図ることが重要です。そこで宇宙では環境制御・生命維持システム(Environmental Control and Life Support System, ECLSS)によって、資源の再利用を実現しています。この仕組みは、地球上における人間を中心とした自然界の物質循環サイクルを基にしています。つまりECLSSにおける物質循環とは、人の生活において排出される呼気や排泄物を、植物や物理化学装置を利用して再循環させることで、人が生活する上で必要な空気や水、食料などとして再生し、物資の供給を補おうとする仕組みで、水・酸素・二酸化炭素・窒素が主な構成物質です。

人間を中心とした自然界の物質循環サイクル

人類が宇宙に進出してから50年以上が経ち,様々なミッションに対応した生命維持システムの研究開発が行われてきました。現在の国際宇宙ステーションにおいては、生命維持システムによって水や二酸化炭素の再生を行いながら、人間が宇宙に長期滞在できるまでになってきています。しかし将来の月面基地や有人火星探査に向けて、新たな生命維持システムの検討や研究開発をより加速していく必要があり、一方で生命維持システムの規模が拡大し、複雑化するにつれ、システム全体の物質循環制御が重要になってきました。また外部からの補給が必要無い、完全な閉鎖生態系における物質循環サイクルを実現した生命維持システムは、制御型生態系生命維持システム(Controlled Ecological Life Support Systems, CELSS)といい、人類が宇宙への移住を果たすためには、ECLSSをミニ地球と呼べるCELSSにまで発展させる必要があります。

ECLSS研究会では、宇宙における生命維持技術の研究を支援するため、ECLSSやCELSSの物質循環と制御を模擬するシミュレータ(SImulator for Closed Life and Ecology, SICLE)の開発に取り組んでいます。また有人宇宙開発研究の一環として、火星砂漠研究基地における模擬居住実験への参加や、有人宇宙飛行計画の設計、学会参加/発表などを行っており、更に地球上での課題解決など地球へのフィードバックとして、他分野へのSICLEの応用なども進めています。

■活動内容

SICLE設計/開発

ECLSSの物質循環と制御を模擬するシミュレータSICLEの設計/開発を行っています。SICLEは、MDRS及びInspiration Marsの2つの火星ミッションモデルに適用し、ECLSSの設計評価と、有人ミッション設計の支援ツールとしての有効性を確認しています。今後は SICLEの活用域を広げるべく様々なミッション例にも適用し、さらなる発展を目指していきます。

SICLEの操作画面イメージ

MDRS参加

SICLEにおけるシミュレーションモデルの検証、及び有人火星探査における居住環境の調査のために、アメリカユタ州にある有人火星砂漠研究基地(Mars Desert Research Station, MDRS)における2週間の模擬居住実験に、TeamNIPPONのメンバーとして参加しています。

Crew137(2014/3/1~2014/3/15)

Crew165(2016/3/5~2016/3/20)

Inspiration Marsコンペティション優勝

米国の火星協会が主催した有人火星ミッション設計の国際学生コンテスト(International Inspiration Mars Student Design Contest)に、日米合同チームTeam Kanauの一員としてECLSS研究会メンバーが参加し、見事に最優秀賞を獲得しました!ミッションデザインにおけるECLSSシステムの設計ではSICLEを活用し、積載する物資量や搭乗員の日々の活動スケジュールの設計を行いました。また、研究会で得たELCSS知識を生かし、安全性にも考慮された最適なECLSSシステムの提案を行いました。

防災シミュレータ開発

汎用的な分散制御システムとしての土台を持つSICLEを、地球上での課題解決や技術供与に貢献するべく、その他分野への応用を進めています。その一環として、東京都中小企業振興公社の平成27年度先進防災技術実用化支援事業助成金に、SICLEを発展させた防災シミュレータ開発事業として応募し、見事その対象事業として採択されました。現在SICLEの拡張機能として、防災シミュレータの開発を進めています。

学会発表/展示会 等

・第64回宇宙科学技術連合講演会(2020) 地球上及び宇宙における極限閉鎖環境の比較検討

・71st IAC(International Astronautical Congress) -The CyberSpace Edition, Feasibility Study of Using Applicable Space Assets for Disaster Management and Mitigation in Japan

・2020年度生態工学会年次大会 防災分野への宇宙知見活用に関するフィージビリティ検討

・第63回宇宙科学技術連合講演会(2019) 深宇宙探査におけるECLSSのシミュレーションによる水再生/空気再生に関する考察

・49th International Conference on Environmental Systems(2019) Simulation Study of Environmental Control and Life Support System Design for Deep Space Exploration

・Global Space Congress 2019 (アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ) 物質循環制御システムシミュレーションなどの紹介および展示

・第62回宇宙科学技術連合講演会(2018) 深宇宙探査におけるECLSSのシミュレーションによる考察

・2018年度生態工学会年次大会 月軌道プラットフォームゲートウェイ及び深宇宙探査におけるECLSSシミュレーションによる考察

・45th International Conference on Environmental Systems(2015) New ECLSS Simulation Software and Its Demonstration by Manned Mars Missions

・第58回宇宙科学技術連合講演会(2014) SICLEによる有人火星ミッションの物質循環シミュレーション

・2014年度生態工学会年次大会 SICLEによる火星ミッションの物質循環シミュレーション

・2013年度生態工学会年次大会 物質循環制御システム研究開発用シミュレータSICLEの開発

・日本地球惑星科学連合2013年大会 物質循環制御システム研究開発用シミュレータSICLEの開発(ポスター発表)

・第56回宇宙科学技術連合講演会(2012) 物質循環制御システム研究開発用シミュレータSICLEの開発

・2012年度生態工学会年次大会 物質循環制御システム研究開発用シミュレータSICLEの開発

■SICLE

SICLEは、グラフィカルユーザーインターフェースによる直観的な操作性と、基本モデルをベースに様々な機能を追加できる拡張性の高い仕組みを有した、物質循環制御システムの研究開発用シミュレータです。

SICLEの特徴

1. 学術的研究成果に基づく設計思想

SICLEは、青森県六ケ所村の閉鎖型生態系実験施設(CEEF)における先端生命維持システムの研究を、物質循環モデルを模擬する支援をしてきた学術的成果をベースとして設計されたシミュレータです。

2. 直観的な操作性を重視したインターフェース

多種多様な物質・装置が複雑に連携する生命維持システムにおいては、システム全体像の把握から各装置の詳細設定までを、視覚的かつ簡易に認識できることが肝要です。従って、設計者が容易にシステム設計をできるように、アイコンによる装置の選択操作とブロック図の作成を可能にしました。またシミュレーション経過を視覚的に把握・追跡し、実行中でも装置停止・故障等のステータス変更を可能にしています。

3. 拡張性を有するソフトウェア構成

既に世界中には様々な種類の物質再生・循環を担う装置が存在しています。シミュレーションにおける多様な装置の取り込みを可能にするため、ユーザー定義による装置の作成、人間・植物モデルの導入など、様々な物質循環システムを容易にモデル化するための機能を提供しています。さらに他の分野に応用可能なように、拡張性を有するクラス構造とアルゴリズムを採用することで、生命維持システムに留まらない、様々な全体制御システムや分散制御システムの観点からの制御理論も、組み込み可能な汎用的なシミュレーションツールを目指していきたいと考えています。

SICLE設計画面
SICLE経過画面
SICLE履歴画面

今後、多様化・複雑化していく生命維持システムの研究開発に対応していくため、システム設計・シミュレーション実行・データ分析まで、一貫してサポート可能なソフトウェアツールを目指していきます。