テラフォーミング
_ 「火星地球化計画」なる本を読みました。いわゆるテラフォーミングについて書かれています。火星有人探査も実現していない段階で、殆どSFの域を出ていない研究分野と言えるでしょう。私も大学院に在籍していたころ、自分自身も携わってみたかったテーマでした。後輩の修士の学生で研究を希望した人が居ましたが、さすがに指導教官から「修士のテーマとしては無理だ。」と言われて断念したのを思い出します。しかしながら、世界的にはかなり精力的に研究が進められているようです。
実現するにはとてつもなく膨大な時間が掛かりますが、その前にそもそも他の惑星の環境を変えてしまって良いのかという倫理的な問題も大きいです。地球環境の悪化を止められない人類が、他の惑星でも同じことを繰り返すのか、更にはもしその惑星に先住生物が棲んでいた場合に、彼らの棲みかを奪って良いのかと言う問題も有ります。実のところ、もっと身近な問題として、火星探査機が火星上に着陸した際に、地球の微生物が入り込み、繁殖して火星を汚染する可能性も捨て切れません。もちろん、その逆の危険(火星の細菌を持ち帰って、地球が汚染される)も有ります。日本宇宙生物科学会では時々この問題に触れられています。だからと言って、惑星探査を止めることは出来ないでしょうから、とにかく慎重を期して進めるしかないと言うことだと思います。
閉鎖型生態系実験施設
_ 環境科学技術研究所に閉鎖型生態系実験施設(CEEF:Closed Ecology Experiment Facilities)が有ります。アメリカのバイオスフェア2はご存知の方が多いと思いますが、CEEFは日本版バイオスフェアということになります。しかしながら大きく異なる点は、バイオスフェア2は自然の再生能力による物質循環に依存していましたが、CEEFでは物理化学装置で物質循環を制御します。地球は自然の力を借りて物質循環していることを考えると、バイオスフェア2の方がより良いもののように感じてしまいますが、空間を大規模なものにしなくては閉鎖系物質循環が維持できないということになります。すなわち、月面・火星基地のような限られた空間で閉鎖系を構成するためには、CEEF方式が必要となる訳です。NASAは現在、CEEF方式の研究を大々的には実施していないため、この分野では日本は世界一進んでいると考えても良いのではないでしょうか?
日本の宇宙開発技術が欧米と比べて遅れているとの厳しい見方の新聞記事について前の日記で触れましたが、閉鎖生態系生命維持システムのような隠れた最新技術が有ることにも目を向けて貰いたいと思う次第です。
LLFAST会合報告
_ 5月11日に月面低周波電波天文研究会に出席しました。今回新たに高知高専の今井先生がメンバーに加わりました。木星電波の研究に長年携わっておられます。木星電波に関する情報が公開されており、木星電波の放射パターンのCG等が見れます。面白いのは、木星電波の日々の観測データの掲載です。木星電波は月面での低周波電波の重要な観測候補となっています。
その他では、電波観測に対する月電離層の影響、月面の温度測定、月のレゴリス誘電率測定、低減方法について調査結果を基に議論が行われました。特に、月でグランド(アース)が取れるのかで議論が沸騰しました。地上では当たり前のことが、月面上では通用しないので、検討しなければならない事項がほんとにたくさん有ります。特に、月面では夜間に摂氏-180度まで下がるので、観測機器への影響を事前に調査するために実験を行なうことが現在検討されています。故障したら修理することは出来ませんので、万全の検査を事前にしておく必要が有るということです。
当社は自律ロボティクスについての調査結果を報告しました。大きいアンテナを設置するのはコスト的に困難なため、小さいアンテナを出来るだけ広い範囲に複数設置することが検討されています。そのため、設置のためのロボット技術も必要となります。これについては、別の機会に詳しく触れたいと思います。次回会合は7月6日が予定されています。
「轟きは夢をのせて」を読んで
_ 的川先生の「轟きは夢をのせて」を読みました。
日本の宇宙開発の厳しい現実が強く印象に残ってしまいました。4月12日の朝日新聞の記事で、欧米に劣っている主な科学技術として、惑星探査技術、有人宇宙活動基盤技術、人工衛星の基盤技術の三つが挙げられていました。非常に寂しい限りです。それに比べて、民間技術では欧米より優位なものが多数有ります。「産」と「官」の活気の差が出たということになるのでしょうか? 私が思うには、宇宙開発復活のためには以下の二つが重要だと考えます。
1.「学」の科学技術の活用
大学は予算や設備等の問題で厳しい状況に有るとは思いますが、「産」と「学」、「官」と「学」、ひいては「産官学」の連携が出来ればいろいろと出来ることが広がるのではないかと考えています。
2.民間での宇宙事業
民間だけで出来る宇宙事業の開拓が必要と思います。最初のブログでも紹介しましたが、民間による宇宙観光旅行事業が花開けば起爆剤になると思います。
当社は上記両方について、積極的に関わって行きたいと考えています。