閉鎖型生態系実験施設

_ 環境科学技術研究所閉鎖型生態系実験施設(CEEF:Closed Ecology Experiment Facilities)が有ります。アメリカのバイオスフェア2はご存知の方が多いと思いますが、CEEFは日本版バイオスフェアということになります。しかしながら大きく異なる点は、バイオスフェア2は自然の再生能力による物質循環に依存していましたが、CEEFでは物理化学装置で物質循環を制御します。地球は自然の力を借りて物質循環していることを考えると、バイオスフェア2の方がより良いもののように感じてしまいますが、空間を大規模なものにしなくては閉鎖系物質循環が維持できないということになります。すなわち、月面・火星基地のような限られた空間で閉鎖系を構成するためには、CEEF方式が必要となる訳です。NASAは現在、CEEF方式の研究を大々的には実施していないため、この分野では日本は世界一進んでいると考えても良いのではないでしょうか?

日本の宇宙開発技術が欧米と比べて遅れているとの厳しい見方の新聞記事について前の日記で触れましたが、閉鎖生態系生命維持システムのような隠れた最新技術が有ることにも目を向けて貰いたいと思う次第です。

LLFAST会合報告

_ 5月11日に月面低周波電波天文研究会に出席しました。今回新たに高知高専の今井先生がメンバーに加わりました。木星電波の研究に長年携わっておられます。木星電波に関する情報が公開されており、木星電波の放射パターンのCG等が見れます。面白いのは、木星電波の日々の観測データの掲載です。木星電波は月面での低周波電波の重要な観測候補となっています。

その他では、電波観測に対する月電離層の影響、月面の温度測定、月のレゴリス誘電率測定、低減方法について調査結果を基に議論が行われました。特に、月でグランド(アース)が取れるのかで議論が沸騰しました。地上では当たり前のことが、月面上では通用しないので、検討しなければならない事項がほんとにたくさん有ります。特に、月面では夜間に摂氏-180度まで下がるので、観測機器への影響を事前に調査するために実験を行なうことが現在検討されています。故障したら修理することは出来ませんので、万全の検査を事前にしておく必要が有るということです。

当社は自律ロボティクスについての調査結果を報告しました。大きいアンテナを設置するのはコスト的に困難なため、小さいアンテナを出来るだけ広い範囲に複数設置することが検討されています。そのため、設置のためのロボット技術も必要となります。これについては、別の機会に詳しく触れたいと思います。次回会合は7月6日が予定されています。

「轟きは夢をのせて」を読んで

_ 的川先生の「轟きは夢をのせて」を読みました。

日本の宇宙開発の厳しい現実が強く印象に残ってしまいました。4月12日の朝日新聞の記事で、欧米に劣っている主な科学技術として、惑星探査技術、有人宇宙活動基盤技術、人工衛星の基盤技術の三つが挙げられていました。非常に寂しい限りです。それに比べて、民間技術では欧米より優位なものが多数有ります。「産」と「官」の活気の差が出たということになるのでしょうか? 私が思うには、宇宙開発復活のためには以下の二つが重要だと考えます。

1.「学」の科学技術の活用

大学は予算や設備等の問題で厳しい状況に有るとは思いますが、「産」と「学」、「官」と「学」、ひいては「産官学」の連携が出来ればいろいろと出来ることが広がるのではないかと考えています。

2.民間での宇宙事業

民間だけで出来る宇宙事業の開拓が必要と思います。最初のブログでも紹介しましたが、民間による宇宙観光旅行事業が花開けば起爆剤になると思います。

当社は上記両方について、積極的に関わって行きたいと考えています。

月面低周波電波天文研究会

_ 当社は月面低周波電波天文研究会(LLFAST)のコアメンバーとして活動しています。研究目標は、最終的に月の裏側に電波天文台を建設しようと言う壮大なものです。その第一段階として、小型干渉計を月面に設置して地球との間の干渉計を構成(いわゆるVLBI)し、様々な電波天体を観測することになります。私はこれまで有人月面基地に向けた閉鎖生態系生命維持システムの研究を主に行ってきたので、何かお役に立てることは無いかと思い参画させて頂きました。

現在のメンバーは理学系の方々が多いです。これから、ローバー・ロボット技術、電力供給技術等の工学的課題の研究が必要となるため、工学系の方々でご興味の有る方、一緒に研究しませんか?

今後、研究進捗状況を適宜ご紹介していきたいと思っています。

生態工学会

生態工学会は昔、CELSS学会と言う名前でした。 Controlled Ecological Life Support Systems、閉鎖生態系生命維持システムです。宇宙ステーションにも生命維持システムは存在しますが、食糧生産も含めたものがCELSSということになるでしょう。食糧補給が困難な場所、つまり月面基地や火星基地で必要となってくる技術です。バブル時代、月面基地の研究がさかんに行われていましたが、バブル崩壊後は急速に姿を消しました。その顕著な例が、JAXAのECLSS(Environmental Control and Life Support System)研究の消滅、航空宇宙学会での有人宇宙技術シンポジウムの開催休止でしょう。そんな状況の中で、生態工学会はCELSS研究をサポートして来ました。この場を借りて、関係者の方々の努力に感謝の意を述べたいと思います。このような地道な活動が効を奏したのか、昨年頃から急にCELSS関連の講演が増え、盛り上がりの兆しを見せています。CELSSのみでなく、月面・火星基地全体の研究が活発になり、構築に向けた動きとなるように、微力ながら当社も精一杯努力していきたいと考えております。